my dear accomplice[sample]



















再会など、しなければよかった。
そうすればきっと、こんな事にならずにすんだ。
でも悔いてももう遅い。
全てがもう起こった後だった。
やはりゼロの正体はルルーシュだった。
黒い仮面の下から現れたのは、スザクが密かに焦がれていた、親友の美しい素顔。
その憂いを秘めた瞳を見たとき、スザクの中で覚悟が決まった。
紛うことなき最悪な事実。赦せなかった。
もう、どうにもならない。
――それならば、ルルーシュの中からゼロを消してしまえばいい。
スザクに与えられた力ならそれが可能だった。
記憶を手放せと命じた声は、スザクが意識したより随分冷ややかな響きで紡がれていた。
それを受けたルルーシュの双眸が、一瞬紅くぼんやりと光り、返事をする前にその細い体は崩れ落ちていく。床に衝突する前に、スザクがそれを素早く受け止めた。
「な、何したの…?」
静まりかえっていた空間で、やがて時間が動きだしたように、強張った声が、背後から聞こえた。
スザクが振り返れば、カレンはさまざまな感情が交錯した表情で、衝撃に震えながらも此方に駆け寄ってくる。
「ゼロに…ルルーシュに何をしたの!?」
ヒステリックに高い少女の声は、スザクにとって酷く耳障りに響く。
「正体が解っても、ゼロが心配?」
「あ、当たり前でしょう!」
「君はルルーシュを嫌ってると思っていた」
「そういう問題じゃない!何をしたのか言いなさいよ……まさか殺したの」
「殺した?――そうだね……ゼロは、殺した」
「な――!あんた何やったか解ってる?ゼロはルルーシュなのよ!!」
「ルルーシュは生きている。もう前のままではないけれど」
「え…?」
驚愕と混乱に見開かれるカレンの瞳。
次の言葉を発する前に、スザクは、その力ギアスをもう一度発動させた。
「ゼロは死んだ。仲間に伝えてこい。黒の騎士団を説得し解散させるんだ。――僕たちは気付かれないよう秘密裏に逃がせ」
「……はい」
紅く染まった瞳。空ろな表情をしたカレンが、無機質な声で応える。
V.V.と名乗った少年から与えられたギアスの力。
全てを教えられた。ゼロの能力もこれと同じものだと。
より狡猾で手際よく最大限に、その効力を発揮しているとみれるゼロ。
それを聞いたとき、スザクが一番に想像したゼロの姿は、何故か一番そうであって欲しくないルルーシュだった。
聡明で美しい親友。ほぼ直感に近いそれは、残酷にも見事的を得た。
命令の衝撃が強すぎたのか、意識を失い、スザクの腕の中でぐったりとしているルルーシュ。
その蒼ざめた頬に触れると、滑らかで冷たい感触がまるで本当に死んでしまったようだ。スザクがひやりとした思いで細い首筋に触れれば、微かに脈打つ感触が伝わってきて、ほっとする。
ふと視線を感じて前を向くと、カレンが紅いぼんやりとした双眸でこちらを見ていた。スザクに来いと目で合図しているのだ。
スザクはルルーシュを軽々と抱き上げ、手招かれた夜の闇の中へと消えていった。









ギアスの力は、意図しない強さで、ルルーシュの記憶を蝕んでしまっていた。
スザクの部屋のベッドの上で目を覚ましたルルーシュは、ゼロの事どころか、一切の記憶を失ってしまっていた。
医師を呼んで診察してもらうと、詳しい事は設備のあるところで検査しないと解らないが、何らかの精神的ショックで、ルルーシュの記憶はおよそ4,5歳程度の知識で留まっているという。精神科医への問診を進められた。勿論医学で解明するのは難しいだろう。尋ねるまでも無い。スザクがそれをしたのだ。
記憶の前後はめちゃくちゃで、スザクの事は奇跡的に覚えている。勿論、子供の頃の記憶のみでだが。
それでも、4歳程度の精神に「スザク」という人物のおぼろげな知識があるだけだったので、子供の頃に実際接していたルルーシュとも大きく違っていた。
それよりずっと、随分と幼く、日常の事すら教えることは多い。
まるっきり4歳程度の子供なのだ。
軍事があるものの、スザクは出来うる限りルルーシュの存在を隠蔽し、その家に匿った。
もちろん、ルルーシュがゼロであるという事は誰にも教えていない。
幸か不幸か、ギアスの力の影響で、カレンもゼロの正体を見たことは覚えていなかった。
黒の騎士団は、カレンが肯定したゼロ死亡の説に動揺し、様々な意見が衝突し、指揮が乱れたその内情はほぼ壊滅といっていい様子だった。














「すざく…!」
「どうしたのルルーシュ」
不安そうな声が背を向けた途端に追いかけてきて、スザクはくすぐったい思いで振り返った。
既に潤みだしている形のいい大きな瞳。スザクは安心させてやりたくて優しく微笑んだ。
「いかないで…」
「ジュース買いに行こうとしただけだよ。飲みたいでしょ?オレンジジュース。好きだもんね」
「いい。いらない、から」
「…どうしたの?何かあったの」
「こわい…」
「……誰かに、何かされた?」
「…すざく」
頼りない声で、まるで確認するかのように自分の名前を呼んでくるルルーシュに、スザクは、なぁにと優しく返した。
しかしルルーシュは何かを言いかけて口を開き、何度も逡巡してみせながらも、そのまま哀しそうに俯いてしまった。
スザクは、ルルーシュが自分でその唇を開けるのを、辛抱強く待つ。
今のルルーシュは、まるっきり4、5歳程度の子供なのだ。
無理に聞き出そうとすればその幼い魂は傷つき、心を閉ざしてしまうだろう。
サラサラとした髪を何度も優しく梳いてやると、ルルーシュは、顔は上げないままでもう一度か細くスザクの名前を呼んだ。それは聞いているこっちが切なくなるような微かな声だった。
「なぁに。ルルーシュ。落ち着いてお話してごらん?」
「んっ…」
ようやく顔を上げたと思うと、長い睫には既に煙ぶるように涙が光っていた。
スザクはそれを指先でそっと拭ってやる。
ルルーシュは涙に小さく震えていて、時々痙攣したかのようなしゃっくりが出てきていた。
目尻の切れ上がった、憂うアメジストの瞳。白く柔らかい陶器めいた肌。すらりと長く、少年にしては折れそうなほど華奢な肢体。
一見背筋が凍るような美しい外見をしているルルーシュ。以前は聡明で気丈などこか冷ややかな雰囲気すらあるルルーシュが、幼児退行した今、濡れた瞳やあどけない唇を惜しげもなく晒していて、幼いその仕草がアンバランスな色香を醸し出している。
なんとも憐憫を誘うその姿に、スザクはルルーシュの座っているベッドの隣に腰を降ろし、向かい合う形で彼を抱きしめた。
ルルーシュは一瞬体を強張らせたが、やがて安心したようにそっと力が抜けていった。
ルルーシュをこんな風にしたのはスザクだというのに、無条件に寄せられる信頼。
愛おしい。
スザクは、罪悪感を秘めながらも、ルルーシュを酷く愛おしく感じる。